顎関節症
- 頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなどの全身におよぶ痛み
- めまい、耳鳴り、耳がつまった感じ、難聴
- 眼のつかれ、充血、涙が出る
- 鼻の症状(鼻がつまった感じがする)
- 顎が安定しない、噛み合わせがうまくできない
- 歯の痛み、舌の痛み、味覚の異常、口が渇くような気がする
- 嚥下困難、呼吸困難、四肢のしびれ等が起こる場合もあります
「顎が痛くて、硬いものが噛めない」
「口を大きく開けることができない」
「口を開けると、顎がカクン、コキンと音がする。」
このような症状をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
これらはいずれも顎関節症の代表的な症状として挙げられているものであり、上記のうち一つでも当てはまる症状がある場合、顎関節症であることが疑われます。
顎関節症は近年特に若い女性に急増しており、ある研究では、女性は男性に比べて骨格や筋肉が弱く、顎関節症になりやすいとの分析結果も報告されています。
また近年では、コロナ禍における生活習慣の中にも顎関節症を発症しやすいものがあるとして注意が呼びかけられています。
顎関節症になってしまう原因
顎関節症の誘因としては原因が1つだけではなく、複数の原因が微妙にからみあって様々な症状がでることが多いようです。
診断学の進歩によって部分的には明らかにされましたが、いまだにわからない点も多く残っているのも現状です。
一般的には、下記のような癖や状態が顎関節症の原因になりやすいと言われております。
TCH(Tooth Contacting Habit、歯列接触癖)
正常な人の場合、普段リラックスをしている時は上下の歯は接触しておらず、2-3ミリほど離れている状態にありますが、中には、何もしていない時にも上下の歯が接触させる癖をお持ちの方もいらっしゃいます。
このような癖は、TCH(Tooth Contacting Habit、歯列接触癖)と呼ばれ、最近急増している顎関節症とも深いかかわりを持つ症状として注目されています。
TCHは、タイプとしては、クレンチング(食いしばり)と似ていますが、食いしばりのように大きな力がかかっているわけではなく、ただ上下の歯が接触している程度なので、ご自身はもちろん、周りの人も癖に気が付きにくいのが特徴です。
THCがある人の場合、舌の側面がデコボコする(舌圧痕)、頬の内側に白いスジのようなものができる(頬圧痕)、歯ぐきの骨が膨らむ(骨隆起)、などといった症状が現れる場合もあります。
歯ぎしりや食いしばりなどの癖
歯ぎしりや食いしばりは、顎の筋肉を過度に緊張させ顎関節や噛む筋肉に大きな負担をかけてしまいます。
歯ぎしりや食いしばりは、ストレスによって引き起こされるとも考えられており、引っ越しや進学、就職のタイミングで発症する方も多いようです。
また近年では、コロナ禍におけるストレスも歯ぎしりや食いしばりを誘発しているとの見方もあり、ストレスをためないための自己コントロールがますます重要になってきています。
歯ぎしりや食いしばりがある方は顎関節症のみならず、むし歯や歯周病、知覚過敏になりやすかったり、症状が重い場合は歯が割れてしまうという場合も多々ありますので、早めの改善が必要です。
頬杖やうつ伏せ寝、猫背などの姿勢の悪さ
下顎は普段頭の骨と筋肉にぶら下がるようについており、自然にバランスがとれる位置に収まっています。
頬杖やうつ伏せ寝は、下や横から顎を押す力が加わりますので、習慣的に行っている場合は顎がずれてしまう原因になります。
また、姿勢が悪いと全身のバランスの悪さを頭部で調整しようとするため、顎の位置が本来あるべき正しい位置からずれてしまい、顎関節症の原因となります。
近年ではリモートワークが普及していますが、集中してパソコン作業を行っていると、ついつい前かがみになり、顔を起こして顎を突き出した姿勢で作業しがちになります。
このような姿勢は顎の位置を前方にずらし、猫背になることで首の筋肉も緊張させてしまいますので、結果的に釘の筋肉とつながる顎の筋肉にも負担をかけることとなり、顎関節症の原因となります。
同じように、スマホを操作するときも下を向いて猫背がちになるため、スマホの使い過ぎも顎関節症を引き起こす原因となります。
噛み合わせが悪い
噛み合わせが悪いと本来あるべき顎の位置とは別の場所に顎がおさまってしまうことになるため、そのずれが顎関節症を引き起こしてしまいます。
噛み合わせの悪さは元々の歯並びが悪いということが原因の場合もありますが、実は矯正治療や詰め物・被せ物、抜歯などの歯科治療によって噛み合わせが変わってしまうこともあります。
特に奥歯の治療は噛み合わせに大きな影響を及ぼしてしまう可能性があるため、当院では奥歯の治療は同時にまとめて複数本行うということはなるべく控え1~2本ずつ行い噛み合わせに影響がないよう注意しながら治療を薦めさせていただいております。
歯科治療をしてから顎に違和感がある、矯正治療を行ってから顎に痛みが出てきた、という場合は、噛み合わせがしっかりと調整されていない可能性もありますので、なるべく早めに相談されることをお勧めします。
外傷によるもの
事故などによって顔に大きなけがを負ってしまった場合や、顎に大きな衝撃が加わってしまった場合、その衝撃によって顎の位置がずれてしまい、顎関節症になる場合があります。
また、顎だけではなく、首などにおった外傷も発症の原因となりますので注意が必要です。
適切な治療処置を行い、治療後は硬い食べ物は避けるなどなるべく安静にするようにしましょう。
顎関節症の主な症状
顎関節症の主な症状は下記が挙げられ、各症状が複合的に起こる場合も多くあります。
顎が痛む(顎関節痛・咀嚼筋痛)
顎関節症よる顎の痛みは、顎を動かしていないときにはほとんど感じることはありません。
あくびをしたり食事で物を噛んだ時に顎に痛みやだるさを感じるため、充分に食事を取ることができずに身体の免疫力も低下し、風邪やウイルスに感染しやすくなってしまうこともあります。
口が開かない(開口障害)
顎に異常がない方の場合、約40mm以上、開口できるのが一般的で、これはだいたい、人差し指から薬指まで3本を縦にして口に入るくらいの大きさです。
ですが開口障害を発症している場合、口の中に指を縦に2本入れられないことが多く、また、痛みからさらに大きく口を開けないことが多いようです。
開口障害は顎関節症の中で一番重い症状とされており、2~3ヵ月放置すると症状が進行してしまい、大掛かりな手術が必要となってしまう場合もあります。開口障害があらわれた場合はできるだけ早めに診察を受けましょう。
顎を動かすと音がする(顎関節雑音)
口を開けたり閉じたりする時に、顎関節でカクンというような音がするのも、顎関節症の代表的な症状と言えます。
この場合は、音が鳴るだけで特に痛みを感じないケースも多いため、症状があっても放置されている方が多いように思います。
ですが、痛みを感じなくても顎のズレで周辺の骨や組織に負担をかけている状態ですので、症状が重症化してしまうと開口障害に至ることもありますので注意が必要です。
全身にみられる副症状
顎関節症には、上記の代表的な症状以外にも、顎周辺だけでなく全身の様々な部位に現れる副症状もあります。
顎関節症の治療
ボトックス治療
ボツリヌス(ボトックス)治療とは、ボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質の一種を過度に緊張している筋肉に注射することで、一時的に緊張をほぐす治療法です。
美容外科などでも広く取り扱われており、主には筋肉の過度な緊張が原因で生じるシワを改善したり、小顔治療などにも用いられております。
歯科領域においては、ボツリヌスの持つ「筋肉の緊張をほぐす」という性質を利用して、歯ぎしり・食いしばりや、顎間節症などの治療に使用されます。
特に食いしばりは、ご自身ではなかなかコントロールできない無意識の習慣で、知らず知らずのうちに歯に大きなダメージを与えてしまいます。
ボツリヌスを利用して筋肉の緊張を抑制し、歯にかかる力をコントロールすることで、噛んだ時の歯への負担やダメージを和らげることができます。
(※ボツリヌス(ボトックス)注射とは、ボツリヌストキシン製剤の商品名です。一般的にボトックスという名称が普及しているため、患者さまに解りやすいようボトックスという名称を使わせていただいております。)
マウスピースによるスプリント療法
スプリント療法とは、透明なマウスピースを装着することで顎の位置と噛み合わせを正しい位置に誘導する治療法です。
これを夜間睡眠中に使用することで、無意識に生じる食いしばりによる顎関節や筋肉への負担を軽減させます。
顎関節症の場合、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方が多いのでマウスピースで歯を保護することでご自身の歯をすり減らしたり、負担をかけたりせずに済むこともメリットと言えるでしょう。
ただし、マウスピースによる治療は顎関節症の原因を解決するわけではありませんので、根本的な改善というよりも、症状を悪化させないために行う場合がほとんどです。